2023-01-01から1年間の記事一覧

ノート

打っては、消す。 自分の気持ちをひとつずつ確かめるように 文章を作るこの時間がたまらなく好きだ。 それは、小学生の頃から変わらない。 お年玉で買ったピンク色のノートに物語を書いては 紙が破れないように消しゴムで優しく擦り、 そして新しい物語を書…

美しい人(長い)

彼は有名人だった。 世に必要とされていて、 誰もがその美しい容姿に溜息をついた。 出会ったのは、仲間内の飲み会。 輪の真ん中ではしゃぐ彼に、 「やっぱり陽キャなんだな」って思った。 しばらくしてみんな酔いが回り、 騒ぐのにも疲れたころ 彼はわたし…

海と傷

高校のときバイトしていたカフェのオーナーが 元漁師さんだった。 年齢は当時50そこそこで、 よく日に焼けた顔に ごわごわした髭を生やしていた。 あまり深く聞いたことはないが、 漁に出たときに事故に遭い このままでは死んでしまうと思って 船を降りてカ…

口元を触る癖がある。 手のひらで覆ったり、 爪でちょんちょんと唇をつついたり、 とにかくわたしはあらゆる方法で口元を触る。 コロナ禍に入ってからは マスクをしていたから 自然とその癖は封印されていたが、 気付けばまた復活している。 心理学的には、 …

泥団子(めちゃ長い)

和泉という友人がいた。 彼とは幼稚園が一緒で、 小学校で離れたのだが 中学で同じクラスになり再会した。 久しぶりに会う和泉はかなり身長が伸びていて 中一の時点で180cmもあり、 すっかり男性になっていた。 幼稚園の頃は女の子みたいに華奢で 園の行事で…

クロアゲハ

私が見たいとせがんだのか 父の気まぐれだったのか、 今となっては知るすべもない。 ただ覚えているのは、 視界いっぱいに広がる無数のクロアゲハ。 耳を澄ませばキラキラと音が聞こえてきそうなほど 眩くはためいた黒い翅が、 今も目に焼き付いて離れないの…